プリズム 〜7〜







   「将臣!」


   「うるせえな 九郎!」


   「な、何故だ? 何故!」


   「だ、黙れよ!」


ここは八幡宮を少し鎌倉駅に向かった小町通りの真ん中。
観光地の真っただ中である。
しかも日曜日の午後の。
あっという間に2人を取り巻く人垣が出来て、どことなく生暖かい視線が2人に向けられているのだった。






短期の海外語学留学に行っている事になっている将臣だったが、
さすがに1か月以上続いている自宅軟禁状態に耐え切れなくなり、譲や望美が止めるのも聞かず


   「いいだろう! カレーぐらい食いに行かせろよ!」


と言い出したのであった。


   「でも将臣君、同じクラスの人とかに見つかったらどうするの」


   「先輩の言う通りだよ。兄さんは悪目立ちするんだ。学校でも意外と有名人なんだからな」


   「有名人ってのは悪い気がしないがな、『悪目立ち』ってのは余計だな。
    まぁ、もし誰かに見つかったら『昨日、帰国しました』って言えばOKだろう!?」


   「私、知らないからね」


   「まったく、兄さんは一度言い出したら、聞かないんだからな」


   「と言うことは、OKだな。ハハハ、じゃ行ってくるぜ」


   「将臣君、ちょっと待って!
    九郎さん! 将臣君がカレー屋さん以外にフラフラ出歩かないように、ついて行ってください」


   「え? 俺が、か?」


   「おいおい、望美!」


   「先輩、それはちょっと……。兄さんと九郎さんの二人じゃ、かえって目立ってしまうんじゃ……」


   「その方がおおっぴらにどこか行こうとは思わないから丁度いいよ。ね、将臣君」


   「分かった、分かった。行くぞ、九郎」


   「え? や、しかし……。か、確認だが『かれえ』というのは魚ではないのだな?」


   「はぁ? なんのダジャレだ?」


   「いや、その……あの辛い食い物は」


などと言う声が、それでも有川家の居間から遠ざかって行った。










   「な、何故だ? 俺はおまえにも『信頼と親切』を示したいと」


   「で、日曜日の小町通りのど真ん中で、大の男が2人仲良く御手手繋ぐのか!?」


   「だ、ダメなのか?」


   「カレーめし奢ったくらいで感謝をされたかぁ無ぇぜ!」


   「そうではない! い、いや、それもあるが、そういう事をすべて含めてだな」


   「九郎!  ! ……いいから、ちょっとこっちに来い!」


そう言って将臣は、小町通りから一本線路側の、比較的人通りの少ない路地へと、
九郎の腕を、というよりも、ほぼ胸倉をつかむようにして、入って行った。


   「ま、将臣」


   「で? 誰から聞いたんだ?」


   「え?」


   「大の大人がいい歳ぃして手を繋ぐと『信頼と親切を示す』なんてことを、だ」


   「そ、それは景時と白龍が」


   「景時に白龍……」


   「そ、それに、聞くところによると景時の妹やヒノエも」


   「(ははぁん、出所は望美か……、あいつぅ!)ったく!」


   「な、何か不都合があるのか!?」


   「不都合……、そうだな…、いいか九郎、今歩いていた小町通りを思い出せ」


   「小町通り? ああ、あそこの通りのことか」


   「そうだ。ま、別に小町通りでなくてもいいぜ。
    段葛でも稲村ヶ崎の海岸通りでも、現代こっちだったらどの通りでも」


   「何が言いたいんだ? 将臣」


   「大の男が手を繋いで歩いてたか?」


   「……………、そう言われてみれば」


   「現代こっちの野郎どもが、まったく全然、一人として、同性に『信頼と親切』を感じない、ってわけでも無い」


   「では、何故!?」


   「大っぴらに人前でするものじゃ、ないんだ」


   「え、そうなのか!?」


   「そうだ。考えてみろ。人間、何人もいっぺんに手は繋げ無いだろう」


   「ああ、右手と左手、出来ても二人だ」


   「その『二人』にあぶれた奴が可哀想だとは思わねぇか」


   「そ、そう言われれば」


   「だから、こういうコトは、人目に触れないようにこっそりとするのが礼儀なんだよ」


   「そうか、そう言われてみると男同志で手を繋いでいる者達は見かけなかった」


   「子供と大人は、そこの微妙な人間関係のアヤが違うんだ」


   「なるほど。これは景時達にも教えてやらないと」


   「ああ、教えてやってくれ、早急に。それと」


   「? なんだ?」


将臣は、グッと九郎の手を握り、腕相撲でもするようなポーズをとった。


   「こうするのが、今の流行だ」


   「なるほど! ただ手を繋ぐより、男らしい気がする。
    将臣、教授、恩に着る!」


そう言って、九郎は力強く将臣の掌を握り返すのであった。









11/09/19 UP

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